傳田流 成功法

過去にこだわらない構造改革が必要 / 大手半導体メーカの場合

私がコンサルタントをしている会社の一つに、米国の半導体ベンチャーPeregrine Semiconductor社の日本法人「ペレグリンセミコンダクター株式会社」があります。Peregrineは、半導体レーザとCMOS回路を一緒に集積することができるシリコン・サファイア(silicon on sapphire)技術を持っています。Peregrineはオーストラリアに自社工場を保有していますが、日本の半導体メーカと提携することでシリコン・サファイア技術を使った製品の量産技術を確立したいと計画しています。Peregrineとシリコン・サファイア技術については次回のコラムでご紹介することにして、今回は私がペレグリンセミコンダクターの顧問として日本の半導体メーカを訪問したときの感想を述べたいと思います。

一般に、日本の大手メーカは新しい技術に対する取り組み方が非常に消極的です。委託製造でさえもいろいろな理屈を述べて態度をはっきりさせません。彼らはまず、技術的には過去に検討したことがあり同様の技術は自社でも保有している、として技術力では劣っていないことを強調します。しかし実際の提携話になると、何かと理由を挙げて提携話が進まない原因を他に転嫁してしまいます。日本の大手メーカは新しい技術に積極的でないことに関しては世界一だと感じています。

今日本の大手半導体メーカは元気がありません。今後も生き残るためには、従来の発想から脱却し他社との差別化が必要なのです。その点でDRAMの生産をエルピーダメモリに集約するという発想は理にかなっています。ところが、今後のコンピュータ・システムに必要なマイクロプロセサやマイコンなどロジックLSIに関しては、単に会社を統合しただけではダメなのです。

赤字の会社二つが合併または合弁したところで単純に1+1が2にはなりません。生産性が低いまま合併したところで競争力が強くなるわけではないのです。結果的に逆にシェアも落としてしまう可能性があります。

パソコンのCPUとしてIntelのマイクロプロセサが成功している例を考えてください。大手パソコン・メーカの米Dell Computer社は研究開発予算を売上高の数%(2002年度決算の場合1.45%)に抑えることができています。コンピュータ業界としては異例の低さです。これが実現できるのは、IntelがCPU、MicrosoftがOSに関する莫大な研究開発投資をし、その成果を知的所有権という形でパソコン業界に放出しているからです。ただ、このコンピュータやパソコン業界に対するビジネス・モデルは依然としてIntelやMicrosoftが盟主であり、日本メーカがマネしても通用しません。

日本の半導体メーカは、Intelのビジネス・モデルをデジタル家電に適用してみたらどうでしょうか。単にチップを販売するのではなく、セット・メーカに競争力を与えることができるシステム・モジュールで提供するのです。ソフトも入れたモジュールで供給することにより対アメリカの専用半導体メーカに対する差別化ができることになります。日本は、(1)ユーザまたは社内などデジタル家電に関する情報に近い、(2)ソフトウエアとハードウエアの統合力にノウハウがある---ことに優位性があります。

そのためには、戦略の意思決定を迅速に行うために、合併した会社はできるだけ親会社の意思決定から独立した人が経営に当たる、という意気込みが必要だと思います。組織についても、社内のシステム部門の人材を半導体部門へ取り込むなど思い切った改革が必要でしょう。これからの半導体ビジネスは、ただ単にいい半導体チップができただけでは通用しなくなります。

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