傳田流成功法
第7回 新ビジネス・モデルに挑戦しよう / ショップ・ブランドPC誕生裏話
前回のコラムでは,Intel経営幹部に要求されている資質の一つとして,リスクを踏んだ挑戦を受け入れているか(リスク・テイキング),という点があることを紹介しました。つまり,従来のビジネス・モデルによらない新しいビジネスに取り組んでいるかどうか,ということです。
私がインテルに在籍していたときの,その具体例をご紹介しましょう。日本法人インテルのパソコン用CPUの販売先は,当初パソコン・メーカが中心でした。実際にパソコン・メーカから注文を受けてから工場で生産し納品するまでには約3カ月の時間差があります。つまり,Intelが新製品の生産や出荷計画を立てるときには,パソコン・メーカからの受注量を基に予測していたのです。
ところが,1990年代に入ると,その受注量と実際の需要に大きな差が出てきました。パソコン・メーカからの受注量は,実際のエンドユーザの市場を直接反映していないことに気づいたのです。
米Intel社のCPU新製品発売当初は,立ち上がり時の生産量が限られており世界中で取り合いとなります。もし予測が需要より少なかったとしたら,予測に基づいた発注量では足りなくなり,結局は日本法人インテルだけでなく,Intelの売上機会をも損失してしまうことになるのです。そこで,パソコン・メーカからの受注量に依存せず,インテル自身がリスクを負って工場への発注量を決めることにしました。つまり,ユーザと直に接しているパソコン・ショップと直接情報交換することにしたのです。
このために,特別プロジェクトを立ち上げ,約10名の専任の組織をつくりました。責任者は私が直接指名し,責任者が担当者を社内から集めました。引き抜かれた出身部署からのクレームは受け付けない仕組みです。
特別プロジェクトの目的は,パソコン・ショップに対して直接Intelの技術情報を開示すると共に,ショップからはパソコンの売れ筋情報を提供してもらうことにありました。当初,パソコン・ショップ側はインテルに情報提供するメリットがないとして抵抗がありました。しかし,IntelのCPUロードマップを開示したり,技術開発を基にした将来のパソコンの姿を説明したり,販売員に対してCPUの知識を無償で提供したりしました。パソコン・メーカがパソコン・ショップに伝える情報と比べて量・質の面で圧倒したのです。その結果,次第にパソコン・ショップ側と信頼を築くことができるようになりました。
このような経緯でインテルは,パソコン・ショップの販売状況を基にして,パソコン・メーカの傾向や売れ筋モデルなどを把握できるようになったのです。そして,パソコン・メーカからの受注量をそのまま工場に伝えるのではなく,パソコン・ショップの情報を加味した3カ月後の需要を独自に予測して工場に発注するようにしました。例えば,NECからある新製品用に10万台分の受注を受けながら,実際は自らのリスクとして18万台分を工場に発注したこともあります。私がインテル在籍中の予測はかなり正確であったと自負しています。
やがて,パソコン・ショップとの信頼関係は,BOXタイプ(パソコン・メーカに対するバルク販売ではなく単品ごとに包装した)CPUを正式に販売するまでに発展しました。パソコン・ショップ側でBOXタイプのCPUと台湾メーカから調達したマザーボードなどを組み合わせることで,ショップ・ブランドのPCが誕生したのです。










